2025/12/10
県立NPO施設運営法人の政治活動疑惑と、監督責任放棄の全記録
「個人の活動だから問題ない」「ウェブサイトから削除したから解決済み」
これは、岩手県のNPO活動支援の拠点である「岩手県NPO活動交流センター」を管理・運営するNPO法人の代表が、その肩書を利用して政治資金を集めた問題に対し、監督官庁である「岩手県 環境生活部 若者女性協働推進室」が下した最終判断です。
私たちは、この一連の対応に強く抗議するとともに、これが岩手県の市民活動と民主主義にとっていかに危険な前例となるか、その全貌を公開します。
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1.事案の概要:何が起きたのか?
岩手県NPO活動交流センターの管理・運営を受託している「特定非営利活動法人いわて連携復興センター」の代表理事である葛巻徹氏が、自身の政治団体の資金を550万円以上も集めるクラウドファンディングを実施、達成しました。
※岩手県NPO活動交流センターは、「いわてソーシャルパートナーシップ共同体」が、岩手県からの委託事業として、管理・運営を行なっている。
いわてソーシャルパートナーシップ共同体は、「NPO法人いわて連携復興センター:代表機関」と「株式会社めんこいエンタープライズ」で構成
問題点1:NPO法人の「肩書」の政治利用
葛巻氏は、資金調達サイト等において「特定非営利活動法人いわて連携復興センター 代表理事」という肩書を明示していました。これは、県の中核施設の運営を任されている法人という「公的な社会的信用」を、個人の政治活動(集金)に流用したことに他なりません。
問題点2:公職選挙法違反(事前運動)の疑い
選挙期間外にもかかわらず、特定の選挙への出馬や投票を依頼するような内容が見受けられ、公職選挙法第129条で禁じられた「事前運動」の疑いが濃厚でした。
問題点3:NPO法違反(政治的中立性)の疑い
特定非営利活動促進法(NPO法)第2条第2項では、特定の公職者・候補者を支持・反対することを主たる目的としてはならないと定めています。代表理事が法人の肩書で政治活動を行えば、「このNPO法人は特定の政治勢力を応援している」と市民に誤認させることになります。
2.岩手県庁の対応:驚くべき「職務放棄」の記録
私たちがこの問題を県に通報し、指導を求めた後の県の対応は、あまりに杜撰で無責任なものでした。
| 時期 | 私たちの動き | 岩手県の対応 |
| 10/5 | 違反の疑いを通報。調査・指導・注意喚起を要請。 | (1か月以上放置) |
| 11/7 | 報告がないため催促。 | 「電話で注意したらサイトの肩書を削除した。だから解決済み。 指導も顛末書も不要。他のNPOへの注意喚起もしない」 |
| 12/1 | 「削除で幕引きは許されない」と再抗議。 | 「改めて調査したが、あれは代表個人の活動であり、法人の違反ではない。 選挙法は県の管轄外。回答に変更なし」 |
| 12/9 | 法人のガバナンス責任を追求。 | 「回答に変更はない(ゼロ回答)」 |
3.なぜ県の判断は「間違い」なのか?(法令・社会通念上の解説)
県は「個人の活動だから法人は無関係」と切り捨てましたが、この理屈は以下の理由から完全に破綻しています。
1 「肩書」は個人の所有物ではない(ガバナンスの欠如)
法人の代表理事が、その肩書を使って金銭(政治資金)を集めた時点で、それは個人の活動の域を超えています。
企業の社長が社名を使って反社会的行為や不適切な集金をすれば、会社としての管理責任(ガバナンス)が問われるのは社会の常識です。
「NPO法人は代表の私物ではない」という基本原則を、所轄庁である県が否定してしまったのです。
2 指定管理者としての適格性(税金の使い道)
当該法人は、県民の税金で運営される公的施設の管理者です。
公職選挙法違反の疑いがあり、公私混同の恐れがある人物・団体に、県の施設の管理を任せ続けて良いのかという「適格性」の審査は、選挙管理委員会や警察ではなく、委託元である岩手県庁の責務です。「所管外」という言葉は、契約当事者としての責任逃れに過ぎません。
3 「是正済み」の欺瞞
ウェブサイトから肩書を削除したのは、指摘された後の「隠蔽工作」に過ぎません。
重要なのは、「なぜ、公的立場にある人間がそのような判断ミスを犯したのか」という原因究明と、再発防止策です。
顛末書の提出すら求めないということは、県は「バレたら消せばいい、反省文もいらない」という悪しき前例を作ったことになります。
4.加担した地方議員・NPO法人役員の責任
さらに深刻なのは、この法令違反の疑いがある活動に対し、現職の県議会議員、県内の市議会議員、他のNPO法人役員までもが応援メッセージを送り、SNSなどで市民への拡散やクラウドファンディングへの募金に協力していた事実です。
議員の責任: 法律を作る・守る立場にある議員が、公選法(事前運動禁止)やNPO法(中立性)を軽視し、友人の応援ならルールを無視しても良いと考えているならば、議員としての資質に関わります。
NPO役員の責任: 「社会を変える」と謳うNPO法人のリーダーたちが、自らの活動の基盤である法令順守(コンプライアンス)を軽んじてどうするのでしょうか。これは岩手県のNPOセクター全体の信頼失墜につながります。
5.結論:岩手県は誰を見ているのか?
岩手県環境生活部若者女性協働推進室の対応は、県民やNPO活動の健全な発展を守ることよりも、「面倒なトラブルを早く処理したい」「身内の恥を表沙汰にしたくない」という保身行政そのものです。
私たちは決して、特定の個人の政治信条を否定しているわけではありません。
「ルールを守ってフェアにやろう」と言っているのです。
そして、ルール破りを黙認する行政に対し、「仕事をしてくれ」と言っているのです。
このままでは、岩手県のNPO活動は「やったもん勝ち」「政治利用し放題」の無法地帯になりかねません。
岩手のNPO活動は過去にも、NPO法人の暴走で酷い事件を目の当たりにしてきました。
私たちは引き続き、この問題について注視していきます。
岩手県民の皆様、真面目に活動するNPO関係者の皆様、この「異常な幕引き」を許して良いのでしょうか?
文責:岩手NPOサポートチーム 筆頭相談員 岩見 信吾



