2025/10/03
「私たちの街も、もっと【稼げる】ようにならなきゃ!」
最近、そんな言葉をよく耳にしませんか? 観光客を呼び、新しい商業施設を作り、とにかく効率よく収益を上げる。
一見、とてもポジティブな流れに思えます。
しかし、この「稼ぐ」や「効率化」という考え方を、むやみに「公共サービス」や「福祉」、さらには「歴史・文化・教育や景観の保全」に持ち込むと、深刻な問題が起きることをご存知でしょうか。
ピカピカの駅前や、短期的な「成果」の裏側で、私たちの暮らしや地域経済が静かに蝕まれていく危険があるのです。
今回は、その「ワナ」について分かりやすく解説します。
そもそも「稼ぐ事業」と「支える事業」はゴールが違う
まず、大前提として「まちの事業」には大きく分けて2つの種類があります。
- 稼ぐ事業(営利的な事業)
- 目的: 利益を最大化すること。効率(投資利益率)が最優先。
- 例: 観光地の開発、特産品の販売、商業施設の誘致。
- 考え方: 「儲かるか、儲からないか」が大事な判断基準。
- 支える事業(公共的・福祉的な事業)
- 目的: 住民の生活の質(公共の福祉)や安全を「最低限」保障すること。街のアイデンティティ(独自性)を守ること。
- 例: 公園、図書館、子育て支援、福祉、地域のバス路線、歴史・文化・景観の保全。
- 考え方: 「儲かるか」ではなく、「そこに必要な人がいるか」「それが街の未来にとって必要か」が大事な判断基準。
問題は、この2つを混同し、「2.支える事業」に「1.稼ぐ事業」のモノサシを当てはめてしまうことです。
「効率化」というモノサシが歪み(ひずみ)を生む
では、福祉や公共サービス、文化を「効率」や「見た目」で判断すると、どんな「歪み」が生まれるのでしょうか。具体的な例を見てみましょう。
歪み1:見た目優先で、生活インフラが崩れる
【例】ピカピカの駅前広場 vs ボロボロの水道管
- 稼ぐ視点: 「観光客が降り立つ駅前は、街の顔だ!ピカピカなモニュメントを建てて、イベント広場を作ろう!」(見た目が良く、成果が分かりやすい)
- 支える視点: 「(予算がそちらに回され)もう何十年も交換していない水道管や、老朽化した学校の耐震補強が後回しになってしまう…」(見た目は地味だが、生活に不可欠)
【結果】 見た目は良くなっても、ある日突然、水道管が破裂して断水したり、災害時に学校が危険な場所になったりします。これは市民生活への直接的な不利益です。
歪み2:効率優先で、暮らしの足が奪われる
【例】採算の取れないバス路線の廃止
- 稼ぐ視点: 「山間部を走るあのバス路線は、1日に5人しか乗らない。赤字だから廃止しよう。これが『効率化』だ。」
- 支える視点: 「その5人は、病院や買い物に行くために、そのバスが『唯一』の交通手段であるお年寄りかもしれない。」
【結果】 会社としては「赤字」が消えて効率化されますが、その5人の市民は移動の自由を奪われ、生活が立ち行かなくなります。これは公共の福祉の崩壊です。
歪み3:コストカットで、街の「魅力」が失われる
【例】「儲からない」歴史的な街並みや文化財の放置
- 稼ぐ視点(短期的):「あの古い街並みを維持するのは金がかかる。景観保全の予算をカットしよう。文化財の修繕費も削れ。目先の利益にならない。」
- 支える視点(長期的): 「その歴史や文化こそが、他の街にはない『唯一無二の魅力』であり、住民の誇り(アイデンティティ)の源泉ではないか?」
【結果】 目先のコストは削減できますが、街はどこにでもあるような「のっぺりとした風景」に変わっていきます。街の魅力が失われれば、観光客は来なくなり、結果として「稼げる街」からも遠ざかってしまいます。これは地域の「長期的な資産」を自ら捨てているのと同じです。
歪み4:「成果」の数字だけが求められる
【例】「来館者数」だけを追いかける図書館
- 稼ぐ視点: 「図書館の価値は『来館者数』だ。専門書の購入(コスト)を減らし、流行りのカフェを併設して、とにかく人を集めよう。」
- 支える視点: 「静かに調べ物や勉強をしたい学生、専門書を借りたい研究者、地域の歴史を学びたい住民の居場所がなくなってしまう。」
【結果】 「来館者数」という数字(見た目)は達成されますが、図書館本来の「知のインフラ」という公共的な役割が失われていきます。
その「歪み」は、回りまわって地域経済も壊していく
「でも、福祉や文化を切り捨てないと、街全体が破綻してしまうのでは?」と思うかもしれません。
しかし、逆です。「支える事業」を切り捨てることこそが、長期的に地域経済を不利益に導きます。
【魅力が失われたケース】
- コストカットで歴史的な景観や文化が失われる。
- 街が「どこにでもある退屈な場所」になる。
- 観光客が減り、観光収入が落ち込む。
- 街に愛着を持つ住民も減り、新しい人を惹きつけられず、人口が流出する。
【暮らしの足が失われたケース】
- バスの赤字路線が廃止される。
- 高齢者などが買い物に行けなくなる。
- 地域の小さな商店がお客様を失い、廃業する。
- 「住みにくい街」という評判が広がり、人口が減る。
このように、「効率化」のために切り捨てたはずの「コスト」が、何倍もの「不利益」となって地域経済全体に跳ね返ってくるのです。
まとめ:「稼ぐ」力は、「支える」ために使おう
「稼ぐまちづくり」が悪いわけでは、決してありません。新しい挑戦で収益を生み出すことは、街の活力を保つために不可欠です。
大事なのは、その順番と目的です。
- ダメな例:「稼ぐ」こと自体が目的になり、公共サービスや福祉、文化・景観を「コスト」として削っていく。
- 良い例:住民の暮らしと街の魅力を「支える」という土台をしっかり守るために、その原資として「稼ぐ」力を使う。
見た目がキレイな街も素敵ですが、それ以上に「誰もが安心して暮らし続けられ、誇りを持てる街」こそが、本当に強く、持続可能な街ではないでしょうか。
あなたの街の「効率化」や「新しい計画」が、本当に「暮らし」と「未来の魅力」を支えるものになっているか、ぜひ一度立ち止まって考えてみてください。
このように間違った「稼ぐまちづくり」を狂犬的に受講生を増やし推進しようとする教育者、街づくりコンサルタントやファシリテーターも間違った教育の流布をしているので、十分責任があると考えます。
地方公共団体の間違った、時代に沿わないPFIやP-PFIもそうです。
「岩手公園の活用」や盛岡駅前の「木伏緑地の現状」をぜひ見てみてください。



